2012年6月17日日曜日

小学校5年生『工業と情報通信業』の学習

和歌山大学教育学部「小学校・社会」第10回講義(2012年6月12日)
-小学校5年生『工業と情報通信業』の学習-
5年生社会科は、学習内容が実に多い。
農業・水産業分野もそうだが、工業・情報通信業の学習でも盛りだくさんだ。
教科書を記述通り進めていては、読んでノートにまとめるだけで終わってしまう。
これでは、社会科は面白くないし、実生活と大きく繋がっているにも拘わらず、生活と結合して考えることができる子どもが育たない。
そこで、今回も幾つかの具体的な実践例を紹介した。
講義後の感想カードで、最も学生達の心に強く残り「教師になったら、ぜひ実践したい!」と回答しているものを紹介しよう。
①西川満氏の実践から、画用紙で作った「タローラ」の型紙で学ぶ「バーチャル自動車工場」の学習である。
私は、三菱やダイハツの自動車工場の見学に行けるときは、その機会を最大限に活かし、
もし、行けないときは、校区内の身近なモータース(自動車修理屋さん)の見学を通して、自動車産業を学ぶようにしている。
特に、後者のモータースは、自動車産業と消費者との“接点”である。
そのため、子どもや家族にとっては、最も身近な場所である。
ここを切り口として「自動車産業」の学習を組み立てると、子ども達の生活と工業の具体的な結びつきが見えてくる。
その自動車産業学習に欠かせないのが、西川満氏考案の「タローラ」による“工場内分業”を学ぶ方法である。
画用紙に印刷された「自動車の車体」と「部品」、この部品を切り抜いて、糊で車体に貼り付けていく作業をする。
1度目は「個人企業」として、塗装(色塗り)までの全てを自分1人でやり、ストップウオッチで計る。
2度目は、学級に「自動車工場」をつくり、部品を供給する者と「組み立てライン」を担当する者に分けるのである。
そして、並べた机の真ん中を流れる「紙の車体」に、順番に「部品」を貼り付けていき「自動車」を完成させる。
この双方で「1台の自動車が完成する時間」を比べ、大量生産と価格と労働について話し合うのである。
―これまで、幾度となく自動車工場を見学し、学習を積み重ねてきたが、この西川満実践を越える教材は見あたらない。
本当に、素晴らしい「タローラ」づくりを中心にすえたアイデア実践であると思う。
②もう一つは「メデイア・リテラシー」を考える実践である。(間森の考案による)
別紙のような「放送原稿」を元に、2種類の「ニュースA]「ニュースB]を編集する。
ビデオカメラで撮影し、2台のデッキを繋いで「つなぎどり」により編集するのである。
もちろん、最近では「ライブムービー・メーカー」を使い、デジカメで撮影した動画により編集も可能だ。
この映像の元になる画像は、全て小学校の昼休みに収録する。
運動場の画像は、「A=多くの子どもが遊んでいる場面」と「B=あまり遊んでいない場所」の2画面を収録する。
そして、昼休みの教室は、「C=だれも残っていない教室」と「D=多くの子どもが残っている教室」を収録する。
この4つの画像を、A+C  B+D とを組み合わせ、よく似たナレーションを入れる。
そして、「決まりをまもる活気ある学校」と「決まりが守れない元気のない学校」の2種類のイメージに編集するのである。
この2つのニュースを視聴させ、それぞれの感想を発表させる。同じ学校なのに、なぜ真反対のイメージになるのかを考えさせていく。
最後に「同じ昼休みに撮った画像を使い、組み合わせを変えました」と意図的に編集したことを,発表する。
このことで、「情報は操作できる」ことに子ども達は気づいていく。(大学生もみごとだまされたが・・・。)
2011年3月の「東日本大震災」以後の「原発報道」なども取り上げ、テレビの報道が「事実でない」ことに気づかせることもできる。(板書の写真)
以上、講義の中から学生にとり印象が深かったものを取り上げて見ました。

間 森 誉 司 Mamori Takashi
和歌山大学教育学部講師(非常勤)

2012年6月10日日曜日

少しの工夫で授業が変わる 第2回

「教育新聞」の第2回連載記事を紹介します。
“授業デザイン”欄「少しの工夫で授業が変わる」
今回は小学校5年生、産業学習として「有田みかんを育てる人々」を題材に授業を組み立てました。

間 森 誉 司 Mamori Takashi
和歌山大学教育学部講師(非常勤)
<URL> http://www2.117.ne.jp/~mamori/

「日本の農業(漁業)学習のねらい」5年生産業学習をどう教えるか

「小学校・社会」第9回講義(2012年6月5日)の報告です。
今回のテーマは「日本の農業(漁業)学習のねらい」5年生産業学習をどう教えるか―でした。
①実物の小麦や稲穂を教室に持ち込んでスケッチ!
兵庫県たつの市の近郊農家では、素麺と醤油の原料の「国産化率」を高めるために、「小麦」を栽培しています。
今回は、その農家に一声かけて、小麦を数株刈り取らせて頂きました。
(稲穂は、昨秋から準備していたのですが、軒先に干していて雀に食べられてしまいました。)
スケッチからの“気づき”を学生に発表してもらう。(写真1,小麦のスケッチ)
「初めて見た。」「小麦は白い粉のイメージしか無かった。」「小麦を初めてじっくりと見た。」
「意外と針のような部分がとがっていた。」「小学校の教師として知っておくべき基礎知識だ。」など,初めての小麦との出会いは“好評”でした。
②「小麦の種類」を写真で紹介した後、小麦の生産量、輸入量、自給率など、日本の小麦生産の「現状」を解説しました。
かつて日本の農村では、裏作に「小麦」を生産し、その刈り取りが終わってから稲を田植えする「二毛作」を行っていたこと、
近年、少しずつであるが「麦の自給率」を高める努力がなされていることを話しました。

②稲・藁・籾・籾殻・ぬか・玄米・白米の違いが、わかりますか?
例年なら、ここで稲穂(実物)のスケッチをして、この違いを説明します。(今回は雀の犠牲になりスライドで)
農業学習をする上で、この違いが分かることは「社会科の基礎基本」だと思うからです。
「藁」も知らないで「わらじ」づくりもないし、「ぬか」を知らずに「ぬかみそ」もなし、「玄米」を知らずに「玄米茶」もないでしょう。
以上の「小麦」と「稲穂」の実物紹介は、農業学習の講義では、学生から毎回好評です。
稲穂は、小学生時代に体験的に見ているが、「小麦」は、初体験という学生が、70~80%程度いるのです。
③「日本の農業の現状」をどう教えるのかが、この講義の課題です。
小学校の教科書では、「近代的な農法」を取り入れている典型例が紹介されており、日本の農業の実態をリアルに学べるとは言い難い内容です。
でも、その教科書や社会科資料集などを活かしながら、体験的な学習・見学学習を取り入れることにより、「日本の農業のすがた」をつかませるようにすることが大切です。
そのために、農協や農家、営農組合の協力を得ながら「農業体験=稲刈りや田植え」などを体験することが,子どもの関心を高める上でとても大切です。
そして、厳しい中でも農業に携わっている農家の人々の「労働と生産」の姿に接することで、日本の農業の“現状”に眼を向ける授業を組み立てることができる意義を説きました。
また「自給率」の現状を話し合い、一方で政府が進めようとしているTPPについても、教師として日本国民として関心と「自分の見解」を持つことの意味を強調しました。
④農業学習や漁業学習は「スーパーマーケット見学」から拡がり、深めることができる。
スーパーの野菜売り場(果物)や魚・水産物売り場の見学から、日本の農業の現状や外国との関係、漁業の現状と輸入のようす等を学ぶことができることを取り上げました。
また、その見学を活かした授業の作り方や板書のまとめ方も、実際に授業を記録したスライドを紹介しながら進めました。
5年生の社会科は、農業・工業・情報通信業・日本の地理など学習内容が多く、よほど工夫を市内と「教科書を読んでまとめた」的な学習で終わりです。
そして、現実には「知識理解」「事柄の暗記」に授業がなってしまい、日本の農業の現状と問題点、農業で働く人々や消費者の願いを理解しないままの学習に終わってしまいがちです。
たった一つの稲穂や小麦の穂、バケツ稲の田植え、そしてスーパーでの実物との出会い・・・・工夫を重ねれば楽しい生き生きとした授業が作れることを紹介しました。
大学の教室前面に提示した小麦の穂、教室が「麦畑」に変えることができました。
(写真2,教室風景)

間 森 誉 司 Mamori Takashi
和歌山大学教育学部講師(非常勤)
<URL> http://www2.117.ne.jp/~mamori/

2012年6月3日日曜日

和歌山大学教育学部「小学校・社会」第8回講義の報告


和歌山大学教育学部「小学校・社会」第8回講義の報告です。


 

今回は、小学校4年生「地域開発教材」と「地域の先人」の学習方法について講義をしました。

たくさんの実践例を紹介した中で、学習後の感想文から好評だったものを幾つか紹介します。


 

①先人とは何か?を、さりげなく“担任のセピア色の顔写真”を潜りこませて考え話し合う。

たつの市がうんだ故郷の先人―三木露風(童謡赤トンボ詩人)三木清(哲学者)矢野勘治(一高寮歌作詞)の写真を提示していく。

最後に見せたのが「セピア色の担任の写真」である。専科の時は、子ども達の学級担任(若い先生)の顔も提示した。(資料作成のコツは、必ずセピア色に印刷することである)

このようにしてから、「この中で先人と言えない人はだれだろう?」と質問を投げかける。

「間森先生は、生きているから、先人ではない」「まだ、大きな実績がないからダメ」「世の中のために役立つ立派な仕事をしていないから先人ではない」

「でも、先生は教育テレビにも出ているし、本も出版しているから、少しは”先人“と言えるかも・・・」など―賑やかに先人論議が始まっていく。

本物の先人の肖像画に、たった一枚だけ担任の肖像画を忍び込ませるだけで、子ども達の学習意欲が俄然変わって行くから楽しい。


 

②和歌山県がうんだ「故郷の先人」を取り上げて・・・との学生のリクエストに応えて、手軽に教材が入手できた「松下幸之助」(パナソニックの創業者)を取り上げてみた。

この学習で、準備したのが「学習漫画・松下幸之助」、「二股ソケット(大型家電店で購入、切り替えスイッチ付き)」である。

最初に、「松下幸之助について知っていることを、何でも話してごらん・・・。」と(4年生になった気分の)学生に問いかけた。

ナショナルの創業者、電機メーカーの元社長、和歌山県出身である,世界的な家電製造業―パナソニックの創業者・・・・など,一般的な回答が出て来る。

(意外と和歌山県の出身であることを知らない人が多いようである)


 

③次に、準備したのは「学習漫画集英社版・松下幸之助」から引用した、「松下幸之助の幼年時代」の年表である。

少年時代の彼は、波瀾万丈の人生を送っている。

大庄屋の家に生まれるが、父が米相場に失敗し、和歌山市内に転居。履物店を始めるがやがて倒産。

5歳の時に、長兄・次兄・次姉が亡くなる。9歳で、小学校を中退し、奉公に。12歳の時に父の政楠も亡くなる。

この少年期の苦しみを、同世代である4年生の子ども達の「いま」と重ねて考えさせる。「どんな少年時代を送ったのだろう?」と。

「伝記」や「お話し教材」は、学ぶ子ども達の年齢と近い方が「心理的な共感」「親近感」を覚えやすく,心に響くものが大きい。


 

④次に、「学習漫画」のあるページを提示する。15歳の時に大阪市電が開通jし、市内で電車を見たときの驚きの場面である。

彼は、その最後のコマで「そうか!電気や!」と声を上げている。この驚きに着目させて、次のように発問する。

「幸之助が、「そうか!電気や!」と思ったわけを書き、話し合いましょう」と問いかける。

電気のすごさ、電気の将来性に着目した彼の「転機」ともなる出会いを話し合い,深めるのである。


 

⑤当時の電気の契約は、「一戸一灯制」でどこの家も、一軒に1灯の灯り(電球1個)しかついていなかった。

二股ソケットが出回り、それに継ぎ足すことで電灯を複数個使用することが可能になり始めていた。

しかし、粗悪品で値段もかなり高かった。そこに目を付けた幸之助は、切れた電球の金属部分をリサイクルする手法でソケットを製造し、コストを抑えた。

これが、爆発的な売れ行きを示し、一躍会社が発展していくことになる。(写真Ⅰ・幸之助が作った二股ソケット)

ここで、子ども達(学生)に見せたのが、二股ソケットである。(写真Ⅱ・現在販売されているもの=1個500円程度)

これを10個入手し、数人に1個を配り、実際に操作させてしくみを観察させた。(ほとんどの者が初めて見たと言う)


 

⑥教室前面には、実際にコンセントに接続させて、灯りが点くように提示した。そして、数人の学生を前に呼び、実際にスイッチのヒモを操作させ、どのように使うか、どのように電気が点くかを確かめさせた。

そして、操作した感想を順次発表させた。(写真Ⅲ・二股ソケットを操作する学生)


 

このようにして「二股ソケット」という実物資料を取り入れることにより、当時の電灯事情とそこからアイデアを得た幸之助の着想に共感させる学習を企画した。

たった一つの「二股ソケット」の実物で、幸之助の発明を、具体的につかむことができたのである。

もちろん「幸之助のアイデアに感心するだけ」がこの学習の目標ではない。彼の発明が、爆発的な普及を遂げたのは、「人々の生活を変え、豊かにすること」に結びついていたからであることを忘れてはならない。

先人の“偉業”は、先人の努力や工夫が素晴らしいことは言うまでもないが、それは民衆の支持と結びついたとき大きな力を発揮する。

そこに眼をむけずに、ただ単に「偉業を成し遂げた先人の知恵にのみ驚き、感激し、感謝する」授業に終わったのでは、それは『道徳』でしかありえない。

また、近年の「松下政経塾」の評価などについては、様々な意見もあろうと思う。そのことは、敢えて論じないで、紀の国がうんだ偉大な経営者の教材化のポイントを解説した。







間 森 誉 司 Mamori Takashi

和歌山大学教育学部講師(非常勤)
URL http://www2.117.ne.jp/~mamori/