2012年10月15日月曜日

中学校新指導要領における伝統と文化の尊重、近現代史の重視の意図と背景(上)

 会報№247から中学校学習指導要領でなぜ近現代史の重視が持ち出されたのかを論じています。
その一部をお知らせします。くわしくは、兵庫歴教協の会報をご覧ください。
連絡先は、h_rekkyo2009@yahoo.co.jpまで

 問題の所在
 新学習指導要領が中学校現場でも正式に実施された。社会科の授業時数は年間140時間、1週あたり4時間が履修され、3年時の4月から現代史(戦後史)の学習が行われることになった。
 従前の学習指導要領で「(5)近現代史の日本と世界」と一つの大項目扱いだったものが、新学習指導要領では、「19世紀から20世紀前半(第2次世界大戦)までの歴史を近代史」、「第2次世界大戦後から冷戦終結ごろまでの歴史を現代史」として、その充実を図っている。
 しかし「近現代史の重視とは、必ずしも学ぶ事象の増大や細分化を意味するものでは」ないというのである。学習内容の増大、記述の精細化ではなく、配当時間数の増加分は、「具体的な事例を取り上げたり、思考や表現を重視した学習をすすめたりしてその大きな展開をつかませる」としている(文部科学省中学校学習指導要領解説社会科編、以下「解説」と略記)。
 しかし「なぜ近現代史の重視か?」という疑問に答えるような直接的な記述は、新学習指導要領や解説にはない。
 2006年11月22日参議院教育基本法特別委員会で当時の伊吹文明文部科学大臣は、北岡秀二議員の質問に答えて、「歴史的な事実を教え、積み重ねることで結果的に国を愛する態度が養われる。今回の教育基本法の改正をお認めいただければ、この教育基本法の理念に従って学校教育法を改正し、学習指導要領を変えていく」と答えていた。
 なぜ、近現代史学習が新学習指導要領で重視さてれいるのか。この疑問は、教育基本法が改定される経過にさかのぼって検討することによって明らかになる。
 1.今回の学習指導要領改訂の要点とは何か
 文部科学省は、2008年2月16日に「教育基本法の改正に対応した学習指導要領案の主な改訂点」を打ち出した。そこには「1「教育の目標(第1章第2条)」における新たな規定を踏まえた改訂」として、
 ○道徳教育の充実
 ○活用を重視し、思考力、判断力、表現力等を育成
 ○公共の精神
 ○自然と環境の保全
 ○伝統と文化の尊重
と5項目が挙げられ、そのなかで社会科は下の3項目に関連づけられている。
 社会科は、特に伝統と文化の尊重の項目でくわしく説明される。
 それを具体的に見ると、
「a世界文化遺産や国宝、b狩猟・採集の生活やc国の形成、d江戸時代の教育や文化、e近現代史の重視など我が国の伝統と文化に関する歴史学習を充実するとともに、世界の地理、文化の多様性、国際社会における我が国の役割などの学習を充実【社会】」(記号、下線は引用者)、とある。
 この改訂点を改めて考察すると、a世界文化遺産や国宝は、日本の世界に認められた文化遺産や日本の誇るべき国宝について学ぶことである。b狩猟・採集の生活とは、縄文文化であり、世界で初めて土器を作ったのは日本人の先祖などという記述が想起される。c国の形成とは、国家形成にまつわる天皇を中心とした「神話」を意味するのであろう。d江戸時代の教育や文化は、江戸時代の識字率の高さや浮世絵を中心とし、ヨーロッパを魅了し日本ブームをもたらした江戸時代の文化を表す。
 下線部a~dはいずれも日本文化史にかかわる部分であり、歴史学習の内容を示している。
 しかし最後のe近現代史の重視は、歴史の「近現代史」という時代区分を示し、学習内容の領域を指示してはいるが、その内容そのものを表すものではない。現在の教科書でも扱われている明治や大正の文化を重視して取り扱うよう強調されているわけでもない。
 ではなぜ、伝統と文化の尊重の項目に「近現代史の重視」が挿入されているのか、その意図は明確ではない。

続きは会報で。

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