和歌山大学教育学部「小学校・社会」第8回講義の報告です。
今回は、小学校4年生「地域開発教材」と「地域の先人」の学習方法について講義をしました。
たくさんの実践例を紹介した中で、学習後の感想文から好評だったものを幾つか紹介します。
①先人とは何か?を、さりげなく“担任のセピア色の顔写真”を潜りこませて考え話し合う。
たつの市がうんだ故郷の先人―三木露風(童謡赤トンボ詩人)三木清(哲学者)矢野勘治(一高寮歌作詞)の写真を提示していく。
最後に見せたのが「セピア色の担任の写真」である。専科の時は、子ども達の学級担任(若い先生)の顔も提示した。(資料作成のコツは、必ずセピア色に印刷することである)
このようにしてから、「この中で先人と言えない人はだれだろう?」と質問を投げかける。
「間森先生は、生きているから、先人ではない」「まだ、大きな実績がないからダメ」「世の中のために役立つ立派な仕事をしていないから先人ではない」
「でも、先生は教育テレビにも出ているし、本も出版しているから、少しは”先人“と言えるかも・・・」など―賑やかに先人論議が始まっていく。
本物の先人の肖像画に、たった一枚だけ担任の肖像画を忍び込ませるだけで、子ども達の学習意欲が俄然変わって行くから楽しい。
②和歌山県がうんだ「故郷の先人」を取り上げて・・・との学生のリクエストに応えて、手軽に教材が入手できた「松下幸之助」(パナソニックの創業者)を取り上げてみた。
この学習で、準備したのが「学習漫画・松下幸之助」、「二股ソケット(大型家電店で購入、切り替えスイッチ付き)」である。
最初に、「松下幸之助について知っていることを、何でも話してごらん・・・。」と(4年生になった気分の)学生に問いかけた。
ナショナルの創業者、電機メーカーの元社長、和歌山県出身である,世界的な家電製造業―パナソニックの創業者・・・・など,一般的な回答が出て来る。
(意外と和歌山県の出身であることを知らない人が多いようである)
③次に、準備したのは「学習漫画集英社版・松下幸之助」から引用した、「松下幸之助の幼年時代」の年表である。
少年時代の彼は、波瀾万丈の人生を送っている。
大庄屋の家に生まれるが、父が米相場に失敗し、和歌山市内に転居。履物店を始めるがやがて倒産。
5歳の時に、長兄・次兄・次姉が亡くなる。9歳で、小学校を中退し、奉公に。12歳の時に父の政楠も亡くなる。
この少年期の苦しみを、同世代である4年生の子ども達の「いま」と重ねて考えさせる。「どんな少年時代を送ったのだろう?」と。
「伝記」や「お話し教材」は、学ぶ子ども達の年齢と近い方が「心理的な共感」「親近感」を覚えやすく,心に響くものが大きい。
④次に、「学習漫画」のあるページを提示する。15歳の時に大阪市電が開通jし、市内で電車を見たときの驚きの場面である。
彼は、その最後のコマで「そうか!電気や!」と声を上げている。この驚きに着目させて、次のように発問する。
「幸之助が、「そうか!電気や!」と思ったわけを書き、話し合いましょう」と問いかける。
電気のすごさ、電気の将来性に着目した彼の「転機」ともなる出会いを話し合い,深めるのである。
⑤当時の電気の契約は、「一戸一灯制」でどこの家も、一軒に1灯の灯り(電球1個)しかついていなかった。
二股ソケットが出回り、それに継ぎ足すことで電灯を複数個使用することが可能になり始めていた。
しかし、粗悪品で値段もかなり高かった。そこに目を付けた幸之助は、切れた電球の金属部分をリサイクルする手法でソケットを製造し、コストを抑えた。
これが、爆発的な売れ行きを示し、一躍会社が発展していくことになる。(写真Ⅰ・幸之助が作った二股ソケット)
ここで、子ども達(学生)に見せたのが、二股ソケットである。(写真Ⅱ・現在販売されているもの=1個500円程度)
これを10個入手し、数人に1個を配り、実際に操作させてしくみを観察させた。(ほとんどの者が初めて見たと言う)
⑥教室前面には、実際にコンセントに接続させて、灯りが点くように提示した。そして、数人の学生を前に呼び、実際にスイッチのヒモを操作させ、どのように使うか、どのように電気が点くかを確かめさせた。
そして、操作した感想を順次発表させた。(写真Ⅲ・二股ソケットを操作する学生)
このようにして「二股ソケット」という実物資料を取り入れることにより、当時の電灯事情とそこからアイデアを得た幸之助の着想に共感させる学習を企画した。
たった一つの「二股ソケット」の実物で、幸之助の発明を、具体的につかむことができたのである。
もちろん「幸之助のアイデアに感心するだけ」がこの学習の目標ではない。彼の発明が、爆発的な普及を遂げたのは、「人々の生活を変え、豊かにすること」に結びついていたからであることを忘れてはならない。
先人の“偉業”は、先人の努力や工夫が素晴らしいことは言うまでもないが、それは民衆の支持と結びついたとき大きな力を発揮する。
そこに眼をむけずに、ただ単に「偉業を成し遂げた先人の知恵にのみ驚き、感激し、感謝する」授業に終わったのでは、それは『道徳』でしかありえない。
また、近年の「松下政経塾」の評価などについては、様々な意見もあろうと思う。そのことは、敢えて論じないで、紀の国がうんだ偉大な経営者の教材化のポイントを解説した。
間 森 誉 司 Mamori Takashi
和歌山大学教育学部講師(非常勤)
<URL> http://www2.117.ne.jp/~mamori/
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